杭抜きハンドブック

Handbook(番外編)

IV. 番外編

❶ 既存杭を引き抜いた後の新設杭打設時に留意する点

杭を引抜いて充填材を注入した地盤と原地盤とには強度差があります。強度の違う地盤を一軸回転削孔すると、どうしても強度の弱い方向へ逃げて行こうとします。この傾向は削孔速度を速めるほど顕著に表れます。抜き跡地盤での新設杭削孔では、既製杭打設時の方が造成杭打設時より慎重に行う必要があります。

既製杭打設

  1. 削孔速度の低減
    削孔速度を通常削孔よりも低減することが必要となります。削孔速度の低減により地盤強度の弱い方向へずれていく傾向を抑えることができます。削孔速度の低減は確実に落ち着く深度まで続けなければなりません。
  2. スパイラルスクリューによる先行削孔
    スパイラルスクリューと適正な振り止めを用いて先行削孔を行い、ずれていく傾向を強制的に抑制することができます。
  3. ロックオーガーによる先行削孔
    新設杭の杭芯をロックオーガーにて先行削孔する。ケーシングを使用することによりズレを少なく削孔できるので(2)よりも確実性があります。

「見解」

  • 1)は最低限必要です。
  • 2)は(1)のみで不可能な場合に併用します。((1)と(2)を最初から併用することが望ましい)
  • 3)は(1)と(2)との併用作業でも無理な場合に活用しますが、最も確実な方法です。

現場造成杭打設

現場造成杭打設時に有効な方法は、上記(1)削孔速度の低減です。

❷ ケーシングを用いた引抜き工法で引き抜けない杭

以下の通りです。

  1. 杭間が狭い(既製杭)
    既存杭と既存杭との距離が狭く、物理的にケーシングが隣の杭に当たってしまう場合です。杭頭を確認したときにわかるものもあれば、杭頭は離れていても地中で接近している場合があります。
  2. 継ぎ手部が外れ、杭が大きくずれている場合(既製杭)
    上杭と下杭がずれている場合があります。若干の目違いならPG工法で引抜けますが、大きくずれている場合はPG工法でも引抜き不可となります。
  3. 継ぎ手部で傾斜が極端に変わっている杭(既製杭)
    上下の杭はつながっているのですが、継ぎ手上部と下部で傾斜が変わっているケースです。溶接継ぎ手や特殊継ぎ手に多いようです。若干の傾斜なら引抜き可能ですが、極端に傾斜が変わっている場合、継ぎ手部を超えて削孔をしていると、既存杭をケーシングで削っていきながら破砕してしまう場合があります。
  4. 極端に湾曲している杭(既製杭・現場造成杭)
    極端に湾曲している杭はケーシング工法では引抜けません。実際に極端に湾曲している杭です。(下写真参照)ケーシングは杭の傾斜に沿って行きますが、湾曲には追随できません。

    極端に湾曲している杭
  5. 極端に傾斜(3°以上)している杭(既製杭・現場造成杭)
    ケーシングは基本的に杭の傾斜に追随していきますが、傾斜があまりにもひどい場合には追随しきれません。目安としては、3°以上の傾斜杭は引抜き困難となります。

❸ 既存杭引抜き工事における大きな考え違い

既存杭引抜工事では、地中に埋設されている状態でしか杭は上がって来ないということです。基本的な事ですが、忘れがちです。杭の先端が引き抜けていないと言われることがあります。

PG工法ではチャッキング爪で杭先端部以深の土ごと抱え上げてくることができます。(ケーシング先端部が土で閉塞された状態で、ケーシングから杭などがこぼれ落ちない状態)そうした状態でも杭の先端部(例えば既製コンクリート杭で先端がペンシル形状の場合)だけ無い時があります。何故無いのかは解りませんが、現実にそういうことが起こります。杭先端部2~3M程度がバラバラになって上がってくることもあります。これも上記のような方法で引き上げたときに起こっています。

また現場造成杭の拡底杭を引き抜いた結果、拡底部が無いこともあります。図面では25mの既存杭を実際に引き抜いてみると7mしかなかった、など。このように、実際にそこに無いものは上がってきません。杭抜き工事では、図面通りの杭が引き抜かれるのではなく、今そこに埋設されている状態の杭が引き抜かれるということなのです。